おしらせ
7.252019
扇子の小噺 ‐涼しい豆知識‐ vol.12
「能 “演じる”扇子」

二十四節気ではいよいよ夏のさかり「大暑」を迎えて、心なしかさらに日差しが強くなってきた気がします。
涼しいマメ知識、今回のテーマは「能」です。
皆さんは「能」と言われてすぐにイメージできますか?
「能」には大がかりな舞台セットなどはなく、幕のない簡素な空間で、「謡(うたい)」という声楽と「囃子(はやし)」という楽器演奏、そして削ぎ落された「動きと舞」で演じられる演劇のひとつです。
奈良時代から平安時代に親しまれた歌や踊りや音楽と神様への奉納舞が合わさり、今の「能」の形になったと言われています。
そのためか演じられるストーリーも様々で、ファンタジーな天上人のお話や源氏物語の怨霊で知られる「六条の御息所(ろくじょうのみやすどころ)」が登場する話もあります。
明治時代以降に海外に紹介されたことで、国際的に高い評価を得て「世界無形遺産」にも指定されている、すごい日本芸能のひとつです。
能の特徴として、演者の動きは「型」と呼ばれる動作を組み合わせて表現されます。
決められた「型」の中で内面に込められた感情を物語る、それが能の美しさと見どころです。
能の研ぎ澄まされた動きの中で、演者の持つ「扇」は様々な役割で使われています。
その一部をご紹介すると、まず、怒りの表現は扇を持つ手を振り上げ、一気に振り下ろすことで表現されます。
そして喜びや興奮、勇み立つ様子をあらわす型は「ユウケン(勇健)」と呼ばれ、広げた扇を右手、または両手で持ち、胸の前の空間で大きく上下させます。
その他にも、遠くを見る動作として「カザシ扇」という右手で広げた扇の要部分を持って上にかざす型があったり、「月ノ扇」という広げた扇を左肩に添えて斜め右を見上げる型もあります。月ノ扇はその名の通り、月を見上げる様子や、夕日を見る様子を示します。
このような演者の「感情や動き」に加えて、さらには杯などの「道具」や、風や波といった「自然上のもの」まで扇で表現されています。
美しい世界観の中で使われる、扇に込められた想い。
夏には野外の能舞台「薪能(たきぎのう)」も各地で行われます。能を観ることがあれば、ぜひ扇の使われ方にも注目してみてくださいね。